いつかあの空へ…
TWの片隅で不定期に更新予定。ある獅子の記録…。
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夢現
……悪りィなァ、今、手ェ離せねェんだ
その辺に置いてある冊子でも読んで、待ッててくれねェか?
その辺に置いてある冊子でも読んで、待ッててくれねェか?
アクエリオの一角
俺ではあまり綺麗に描けないドロースピカが
とにかく優しい、明るい光を部屋全体に届け始めて
今が、起きるべき朝の時間帯なのだと悟って
欠伸をかみ殺しながら、ぼんやりし続けている頭を起こす事に集中する
そこは白いのの物置のような自室
本ばかりが散らばっていて、大事な物が時々紛失する
ある意味で異質な空間だ
「…おい」
朝の早い段階で、蒼い澄んだ目が此方を捉えていた
朝だろうが夜だろうが、基本的に外出という言葉がない男が
ドロースピカによる眩しいほどの光を浴びていて
実に寝惚け眼には優しくない
「……起きたら、俺より早く『おはよう』と言わねばならないと言っていたハズ、だが?」
数日間、徹夜して共通語ではない分厚い本を読んでいた男は
俺が居候する際に決めたルールを守らない事を咎めているらしい
『…ッたくよォ、てめェはせッかちなタイプじャねェだろーに』
「……」
『…はァ、そんなに睨むなよ。おはよう…んで?てめェが俺より先に話しかけるとは何の用件で?』
ぼふっ、と埃が舞うほど古い古文書を自分の脇に置いて、男は一言
「でかける」
眼鏡をくいっ、と上げてそれだけ言うと
いそいそと身支度を始めていく
『おい待て。それを俺に報告する意味がわかんねェんだがァ…?』
左右の白髪の跳ね具合を弄りながら、ついでに長髪を軽く適当に結う
起きてすぐは、癖っ毛具合が強すぎていけない
纏めた荷物を白いのが持ち上げると、これまた真っ白い肩掛けカバン
白いコートに白い齧られた帽子、腰に挿したアイスレイピアと
コート内部に隠すトンファーのせいで不審者レベルは計り知れない
白い不審者と成り果てた輩は、目的をこれまた端的に告げる
「昨日偶然にも、仕事を頼まれてしまった…が、俺には向いてない。代理としてお前が行くと良い」
冷たい視線を投げつけて、男は部屋を直にでも出て行こうとするが
『おーィ、俺様はお前の使いッ走りじャねェのよ。残念だが……』
ブツブツと呟いた小言が、どうやら耳に届いたらしい
「依頼人は夕方頃にやってくる。それは……水中、だそうだ」
ごそごそとポケットから紙を取り出して、何かをメモする動作
書き終わったらしく、その紙を無造作に投げつけてくる
説明が済んだと言わんばかりに、後ろでに手を振って
男は捨て台詞と共に駆けて行った
「……俺は、水が、嫌いだ」
少しぐしゃぐしゃになった紙を開いて読んで見ると
意外なことに、人間が書いたとは思えない綺麗すぎる文字が並んでいた
【××辺りの水路。意匠を凝らした銀のシルバーリング捜索】
隅の方にちょこちょこと、依頼してきた人の名前らしきものと
その人の外見的特長等が少し小さい字体で補足されているようだった
『アイツ…逃げただけだろ』
呆れ気味に仕事を押し付けていった輩を恨む
ただ、白い男の水嫌いは事実であった
嫌いとはいっても、濡れたり泳いだりすること自体が嫌いなのではなく
自前の本が濡れてしまうから、という些細すぎる理由がそれだ
『あー…わりとちけェところみてェだ。はやいところ見つけねェといけねェなァ』
ぼんやりする頭を無理やり働かせて
白い男が居ない間に、勝手に部屋に散らばる本を結構な量片付けた
もともとしまわれていた本を別な場所にあべこべに収納していく
書斎としか呼べないレベルの本が溢れている辺り、今日の行き先は本があるに違いない
『俺に仕事を押し付けた分の悪戯は許されるもんだよな!』
達成感溢れる悪戯な笑みを零しながら楽しげに、鍵を念入りにかけて目的地へと歩き出す
指示された水路は、アクエリオの中でならどこでもよく見られる
至って普通の水路であった
強いていうなら、人の通りが少ない場所で
ゴンドラ乗りとゴンドラを見かけない
『……薄々は感づいてたけどよォ、やッぱり水中なんだよなァ』
賑わいが極端に少ないだけで、他の場所と大差はない
しゃがんだり、周辺を歩いてみても何かが落ちていることはなかった
『仕方ねェ…――ジェナス、アクア!』
普段は決して見せない同時召喚、サーチウィズフレンズ
実は召喚の際に誰にも聞かれないようにブツブツと召喚魔法を唱えている
あまり、着目されると気恥ずかしい為
誰の目にも留まらない間に呼び出しているのが常だった
『一緒に探して欲しいもんは、指輪なんだがよォ……俺も入らなきャだめかねェ?』
水中に召喚したジェナスとアクアが、同時に肯定を示す
どちらも目の下付近に召喚した張本人と同じような▼が存在した
『今10月だし、結構涼しいんだぜー?はァ、風邪引いたらアイツのせいにすッからイイケドよォ』
濡れたら困るものを水路のすぐ近くに置き
水中には潜らない第三要員として、バルカンに荷物番をさせる
『じャあ、ジェナスお前は俺と一緒に。アクアは川上の方を探してきてくれ!』
こくりと頷いたアクアが、くすくすと笑いそうな笑みを残して泳いでいくのを見送った
深過ぎる水路ではないため、完全に沈む事はないが
念のためにジェナスに捕まったまま、捜索を開始していく
『水の中が結構綺麗なようだし、簡単に見つかると思ッてたが……ん、広い広すぎる!』
ジェナスが数度、口に何かを銜えて物を示してきたが
どれも銀色とはかけ離れていて、目的の物ではなかった
アクアもまた、数度何かを片手に戻ってきたが
アクエリオに住む人が放り込みそうにないものばかりを持ってきたので
どこから持ってきたのか、とても疑問が湧いている
だが、今はそれどころではないのでさり気無く元の場所に置いて来る様に指示を出しておく
『もう多分昼時だろ。捜索活動は少し休んでからで良いとして、一旦戻ッて作戦会議しよーぜ?』
戻ってきたアクアにそう声をかけて、ジェナスとアクアの召喚の任を解いて
バルカンを肩に乗せて、帰路を歩く
ジェナスとアクアを連れて歩かないのは、やはり体格が比較的大きい方だから
人の目に付くのを拒んだからなのだろう
『………ま、ジェナスとアクアの両人を再び呼んでおいてアレなんだがよォ…』
振り出しに戻り、住処まで戻った
本が床に散乱していないことを改めて確認してから、再度ジェナスとアクアを召喚する
『これ、見てくれよ。主にコイツの口元辺り、な』
ひょいと持ち上げたバルカンが、不機嫌そうな顔でコチラを睨むが
あえて気にしない
びちびちとジェナスがそれに反応する、アクアの視界に入っているのかは謎だったが
驚いた顔をした後に微笑んだ様子を見る限り、ちゃんと視界にそれが入ってるようだ
『水路に落ちてなんかいなかッたッつー訳で頼まれ事は終了』
もはや意味を成していないサーチウィズフレンズを解除しようとしたとき
ひょこひょこと、アクアが服の裾を摘む
【………】
手振りで何かを伝えようと、パントマイム的な何かを示し始める
『(今度、手話か何かを教えるべきなんだろうか)』
ぼんやりと浮かんだ考えも、当の本人が覚えられるかは謎だったので
思考を放棄して、何を伝えようとしているのかを考える
【……!】
手振りだけで伝わらないと悟ったのか、アクアはふわりと何処かの部屋へと
消えていく、が、それも直に戻ってくる
限定的な場所でしか使わない、ある意味恐ろしいものをその手に持って
『……料理、してェッてか?』
包丁とまな板を持ったアクアが、みるからにぱぁっと笑顔を輝かせる
視界のことを気にする召喚者の気苦労を一つも感じていないようだ
『あー…分かッた、分かッたッて!それ持ッて近づくな!』
思わず身を一歩分アクアから遠ざけつつ
バルカンにアクアの視界不良を補うように指示を出す
バルカンが指示を聞いてふてぶてしく睨んできたが、やはり無視して
さりげなく指輪を回収して、後ろ姿を見守る
『……ジェーナス、俺の後ろに廻ッて噛み付こうとしてるのなんか、お見通しなんだからな!』
俺ではあまり綺麗に描けないドロースピカが
とにかく優しい、明るい光を部屋全体に届け始めて
今が、起きるべき朝の時間帯なのだと悟って
欠伸をかみ殺しながら、ぼんやりし続けている頭を起こす事に集中する
そこは白いのの物置のような自室
本ばかりが散らばっていて、大事な物が時々紛失する
ある意味で異質な空間だ
「…おい」
朝の早い段階で、蒼い澄んだ目が此方を捉えていた
朝だろうが夜だろうが、基本的に外出という言葉がない男が
ドロースピカによる眩しいほどの光を浴びていて
実に寝惚け眼には優しくない
「……起きたら、俺より早く『おはよう』と言わねばならないと言っていたハズ、だが?」
数日間、徹夜して共通語ではない分厚い本を読んでいた男は
俺が居候する際に決めたルールを守らない事を咎めているらしい
『…ッたくよォ、てめェはせッかちなタイプじャねェだろーに』
「……」
『…はァ、そんなに睨むなよ。おはよう…んで?てめェが俺より先に話しかけるとは何の用件で?』
ぼふっ、と埃が舞うほど古い古文書を自分の脇に置いて、男は一言
「でかける」
眼鏡をくいっ、と上げてそれだけ言うと
いそいそと身支度を始めていく
『おい待て。それを俺に報告する意味がわかんねェんだがァ…?』
左右の白髪の跳ね具合を弄りながら、ついでに長髪を軽く適当に結う
起きてすぐは、癖っ毛具合が強すぎていけない
纏めた荷物を白いのが持ち上げると、これまた真っ白い肩掛けカバン
白いコートに白い齧られた帽子、腰に挿したアイスレイピアと
コート内部に隠すトンファーのせいで不審者レベルは計り知れない
白い不審者と成り果てた輩は、目的をこれまた端的に告げる
「昨日偶然にも、仕事を頼まれてしまった…が、俺には向いてない。代理としてお前が行くと良い」
冷たい視線を投げつけて、男は部屋を直にでも出て行こうとするが
『おーィ、俺様はお前の使いッ走りじャねェのよ。残念だが……』
ブツブツと呟いた小言が、どうやら耳に届いたらしい
「依頼人は夕方頃にやってくる。それは……水中、だそうだ」
ごそごそとポケットから紙を取り出して、何かをメモする動作
書き終わったらしく、その紙を無造作に投げつけてくる
説明が済んだと言わんばかりに、後ろでに手を振って
男は捨て台詞と共に駆けて行った
「……俺は、水が、嫌いだ」
少しぐしゃぐしゃになった紙を開いて読んで見ると
意外なことに、人間が書いたとは思えない綺麗すぎる文字が並んでいた
【××辺りの水路。意匠を凝らした銀のシルバーリング捜索】
隅の方にちょこちょこと、依頼してきた人の名前らしきものと
その人の外見的特長等が少し小さい字体で補足されているようだった
『アイツ…逃げただけだろ』
呆れ気味に仕事を押し付けていった輩を恨む
ただ、白い男の水嫌いは事実であった
嫌いとはいっても、濡れたり泳いだりすること自体が嫌いなのではなく
自前の本が濡れてしまうから、という些細すぎる理由がそれだ
『あー…わりとちけェところみてェだ。はやいところ見つけねェといけねェなァ』
ぼんやりする頭を無理やり働かせて
白い男が居ない間に、勝手に部屋に散らばる本を結構な量片付けた
もともとしまわれていた本を別な場所にあべこべに収納していく
書斎としか呼べないレベルの本が溢れている辺り、今日の行き先は本があるに違いない
『俺に仕事を押し付けた分の悪戯は許されるもんだよな!』
達成感溢れる悪戯な笑みを零しながら楽しげに、鍵を念入りにかけて目的地へと歩き出す
指示された水路は、アクエリオの中でならどこでもよく見られる
至って普通の水路であった
強いていうなら、人の通りが少ない場所で
ゴンドラ乗りとゴンドラを見かけない
『……薄々は感づいてたけどよォ、やッぱり水中なんだよなァ』
賑わいが極端に少ないだけで、他の場所と大差はない
しゃがんだり、周辺を歩いてみても何かが落ちていることはなかった
『仕方ねェ…――ジェナス、アクア!』
普段は決して見せない同時召喚、サーチウィズフレンズ
実は召喚の際に誰にも聞かれないようにブツブツと召喚魔法を唱えている
あまり、着目されると気恥ずかしい為
誰の目にも留まらない間に呼び出しているのが常だった
『一緒に探して欲しいもんは、指輪なんだがよォ……俺も入らなきャだめかねェ?』
水中に召喚したジェナスとアクアが、同時に肯定を示す
どちらも目の下付近に召喚した張本人と同じような▼が存在した
『今10月だし、結構涼しいんだぜー?はァ、風邪引いたらアイツのせいにすッからイイケドよォ』
濡れたら困るものを水路のすぐ近くに置き
水中には潜らない第三要員として、バルカンに荷物番をさせる
『じャあ、ジェナスお前は俺と一緒に。アクアは川上の方を探してきてくれ!』
こくりと頷いたアクアが、くすくすと笑いそうな笑みを残して泳いでいくのを見送った
深過ぎる水路ではないため、完全に沈む事はないが
念のためにジェナスに捕まったまま、捜索を開始していく
『水の中が結構綺麗なようだし、簡単に見つかると思ッてたが……ん、広い広すぎる!』
ジェナスが数度、口に何かを銜えて物を示してきたが
どれも銀色とはかけ離れていて、目的の物ではなかった
アクアもまた、数度何かを片手に戻ってきたが
アクエリオに住む人が放り込みそうにないものばかりを持ってきたので
どこから持ってきたのか、とても疑問が湧いている
だが、今はそれどころではないのでさり気無く元の場所に置いて来る様に指示を出しておく
『もう多分昼時だろ。捜索活動は少し休んでからで良いとして、一旦戻ッて作戦会議しよーぜ?』
戻ってきたアクアにそう声をかけて、ジェナスとアクアの召喚の任を解いて
バルカンを肩に乗せて、帰路を歩く
ジェナスとアクアを連れて歩かないのは、やはり体格が比較的大きい方だから
人の目に付くのを拒んだからなのだろう
『………ま、ジェナスとアクアの両人を再び呼んでおいてアレなんだがよォ…』
振り出しに戻り、住処まで戻った
本が床に散乱していないことを改めて確認してから、再度ジェナスとアクアを召喚する
『これ、見てくれよ。主にコイツの口元辺り、な』
ひょいと持ち上げたバルカンが、不機嫌そうな顔でコチラを睨むが
あえて気にしない
びちびちとジェナスがそれに反応する、アクアの視界に入っているのかは謎だったが
驚いた顔をした後に微笑んだ様子を見る限り、ちゃんと視界にそれが入ってるようだ
『水路に落ちてなんかいなかッたッつー訳で頼まれ事は終了』
もはや意味を成していないサーチウィズフレンズを解除しようとしたとき
ひょこひょこと、アクアが服の裾を摘む
【………】
手振りで何かを伝えようと、パントマイム的な何かを示し始める
『(今度、手話か何かを教えるべきなんだろうか)』
ぼんやりと浮かんだ考えも、当の本人が覚えられるかは謎だったので
思考を放棄して、何を伝えようとしているのかを考える
【……!】
手振りだけで伝わらないと悟ったのか、アクアはふわりと何処かの部屋へと
消えていく、が、それも直に戻ってくる
限定的な場所でしか使わない、ある意味恐ろしいものをその手に持って
『……料理、してェッてか?』
包丁とまな板を持ったアクアが、みるからにぱぁっと笑顔を輝かせる
視界のことを気にする召喚者の気苦労を一つも感じていないようだ
『あー…分かッた、分かッたッて!それ持ッて近づくな!』
思わず身を一歩分アクアから遠ざけつつ
バルカンにアクアの視界不良を補うように指示を出す
バルカンが指示を聞いてふてぶてしく睨んできたが、やはり無視して
さりげなく指輪を回収して、後ろ姿を見守る
『……ジェーナス、俺の後ろに廻ッて噛み付こうとしてるのなんか、お見通しなんだからな!』
ドロースピカが齎す日の光が
少し傾き始めた頃、つまり夕刻
白い男が静かに無言で帰宅した
その際目にしたのは、男が倒れていてジェナスとアクアとバルカン
星霊に帰宅を迎えられる不自然な気分に襲われた
「さて…聞くのは野暮だと思うが。その男は死でも欲したのか」
ふわふわと対象色を纏う男の上で泳ぐジェナスへと男は問う
『てめェは…コイツが喋るような鮫に見えんのか。大した、変人、だな』
黒の男は顔を上げず、声も切れ切れに応えた
淡い夕陽の色に染められて、自分の住処の本が殆ど本棚に返されている事を悟り
それでも、その事象を無視して白の男は再度問う
「なんだ……生きてるのか。お前、俺が頼んだ依頼の方はどうした」
黒の男を起こす事もせず、白い男が脇を通り過ぎ
今日の時間の中で得た収穫物を、机の上に広げていく
勿論、黒い男の方を再度見直すことはしない
『そりァー…ちャんと依頼人に渡してやッた、ぜェ?……バルカン、が』
『それよりも、てめェは…。この惨事に、疑問、を抱かねェ、のか…!』
少しおかしい言葉に疑問を感じ男は振り向く
夕陽に照らされたジェナスの白い体がやや光以外で赤く染まっているように見え
アクアが少し、不機嫌そうな表情を浮かべながら手を赤く染めている
バルカンの方は、いつもどおり何も変わるところはない
唯一、我関せず、を保っている存在だった
死体よろしく動かない男の言葉の端々を拾い、状況を眺め少しだけ考え込む
帰ってくるまでにあった事柄が、不鮮明ながら理解できた様子が
白い男のため息と共に部屋を染めていく
「…それは、【依頼人にお前自身が会えない状態】だったから、か」
「………馬鹿馬鹿しい。俺を誰だと思っている」
「この現状は、9割お前の悪ノリが原因だろう」
そっと白い男が黒い男のすぐ傍にしゃがみ込む
そして、少々赤っぽく染まったノートを男から引っ手繰った
「……【コレ】は、奪ってはいけないと、俺は常々言っていたはずだ」
引っ手繰ったノートを訳知り顔で、アクアへと返す
アクアは急いでそのノートを隠そうとぎゅっと握り締めて応える
『ち、ちげェよ…!俺はジェナスがそれを喰おうとしてたから護ッてた、ただ、それだけ、だ!』
口や、顔中を少々赤い色に染めた男がやっと床から起き上がり
近場にあったタオルで、さりげなく自分の顔を拭いて
ジェナスの口元を拭いていく
「…どうせ、【それ】の中身を見られてしまうと思ったアクアが、阻止しようと紅をばら撒いたんだろう?」
白い男の足元に落ちていたのは、空っぽになった複数の何かの容器
匂いを確かめることをしなくても分かる
それほどは、濃厚なトマトの匂いが部屋中に充満していた
『…まァ、合ッてるようで違ェな』
『戻ッてきたアクアを驚かせようとして、もともと用意していたもんを利用してよォ』
『ジェナスに噛まれて重症を追った役をしようとしてたのは、マジだ』
ジェナスの口回りを噴き終えるまで、一旦言葉を区切って男は黙る
白い男はその様子を眺めながらその先の答えを待つ
『ただ、ジェナスがトマト好きだッた事を知らなくてよォ…』
『最初に打ち合わせしてた筈のジェナスが大暴走』
『ケチャップが付いてちまッたノートを何度も喰おうとするもんで、鎮めるのに徹してただけだッてーの』
ジェナスの鼻先をぺちぺちと叩きつつ言葉は続く
『バルカンには、そこの脇の廊下まで依頼人を連れてきて貰ッたんだ』
「……ドロー、リップか。お前が使った核心が持てないが」
白い石灰が、少量ながら床に散らばっている壁を白い男は見た
ケチャップでも描けただろうに、紅で描かなかったのはそこまで頭が廻らなかったからなのか
『なァんだ…ネタはバレてんのか』
『指輪は返したし、後日手紙を寄越して貰うように願いはリップに託した』
『暴れるジェナスと格闘してたら、結構な時間が過ぎてた…ま、それだけだぜ?』
パチンと指を鳴らすと、ジェナスとアクアの召喚が解除され
夕陽の中で映し出されていた影が二つ減った
「…普通に、始めからそうしていれば、良かったじゃないか」
ぴたりと止まった空気の中で黒い男がへらへらと笑い出して一言
『ククッ…違いねェ』
すっかり暗くなり、天井には優しい闇色が広がり始めた
明かりを灯そうと思わない限りは結構な暗い場所と成り果てる
「……ところで」
シルバーコヨーテの淡い輝きで闇の中本を捲る音と共に声が届く
「あの本の内容、お前は知っている、のか?」
黒い大きめなクッションに背中を預けていた男がその声に応える
『おゥさ。俺様が知らないわけねェだろ。アレは……』
苦笑が漏れそうなほどの声色でその答えを返す
『アクアなりに纏めてある【料理本】だ』
『一般的な人間が見れば誰でもわかるだろうがよォ。ただ……』
「…ただ?」
声のトーンを落として、小声で男は呟いた
『全部色々おかしいんだ。あれは人間が読んだら【料理失敗確定本】だろうよ』
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プロフィール
HN:
ゼルガ
性別:
男性
趣味:
読書
自己紹介:
弓を愛する、白い獅子。
帽子を愛する、白い狼。
同居人、黒い犬。
白の住人は、気まぐれ無口
…喋るときは良く喋るケド。
唯一共通するのは
両耳の一対の紅いカフス。
黒の住人は、気まぐれ遊び
戯れに、そして、戯れに。
狼姫荒哉(銀雨)
狼姫兎斗(サイファ)
帽子を愛する、白い狼。
同居人、黒い犬。
白の住人は、気まぐれ無口
…喋るときは良く喋るケド。
唯一共通するのは
両耳の一対の紅いカフス。
黒の住人は、気まぐれ遊び
戯れに、そして、戯れに。
狼姫荒哉(銀雨)
狼姫兎斗(サイファ)
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