無題

探してる。見つからない。

……俺の兄。


(片方は兄、片方は俺)

去年の７月頃までは、送ったメールの返信があった。
８月を過ぎた頃から、何度送ってもメールは兄に届かなかった。
……ねぇ、何処にいるの


８月頃まで、弟からのメールがあった。誕生日も律儀に祝ってくれた。
俺の動向が気になる弟だから、どんなに離れていても構ってた。
……俺はね、ずっと此処に居るよ


同年、いきなり行方を眩ませた兄の幼馴染の家を訪ねた。
俺も知った顔。相手も俺を知っている。
彼女なら、何かを知っていると思った。思ってた。
応答がない。彼女も兄も、見つからない。
……ねぇ、何処にいるの


取り返しのつかないこと。追いかけたくて仕方がなかった背中。
多分あの背中は気づいていた。俺がいつも追いかけていたことを。
この機会を逃したら、二度と追えないあの背中。
すぐ決めた。躊躇った。幼馴染の彼女も一緒に、旅立った。
……俺はね、ずっと此処に居るよ。


兄の情報が、痕跡が、見つからない。メールの返事がない。
夏休み明け、９月頃。ある学園への編入を決めた。
消えた痕跡を、見落としたくなくて。彷徨った。
見つからない。今でも探してる。寂しい。
俺の幼馴染が、アパートに押しかけてきた。騒がしい。
寂しくはなくなった。一番欲しい連絡は、未だにない。
……ねぇ、何処にいるの。


モノづくり。思考、超越、自我の尊重。
自分の見てきた世界を、再び再現した小さな箱庭。
あの背中も居る。幼馴染もいる。心残りはある。もう戻れない俺の場所。
弟に、今生の別れを伝えなかった。もう鳴る事のない携帯。
思い付きで学園に編入して、焦れて、怖くて、憧れて、沢山思い出を作った。
弟と、一緒に色んな事をしなかった。もう一度、鳴ってくれてもいいんだよ。
でもね、忘れないで。消さないで。弟の携帯に残るアドレス。
もう二度と俺に言葉が届かなくても。俺が居た。証になるんだから。
……俺はね、ずっと此処に居るよ。


ひと月、ふた月、月を重ねても、届かない。
正月、２月、未だに届かないアドレスにメールを送り続けてる。
メールは届かず、戻ってくるけど、諦めたくない。
何かの気まぐれで、行方知れずの兄にこの言葉が届くかもしれないから。
時間さえあれば、兄の足取りを、知り合いを探してるけど。
兄を知っていた人も、兄の知り合いも、彼女以外知らないけど。
『……元気？』一言だけの問いかけに、いつか応えてくれるかも知れない。
俺の兄は、そんな人。自由人。でも、予想外の行動が多い。
今でも消せない、兄のアドレス。兄の小さな足跡。
もう二度と言葉を交わせなくても。兄が居た。確かな証拠。
……ねぇ、何処にいるの？









……ねぇ、何処にいるの。
俺が少し真似をしたら、『真似するな』って言ってくれる？
紅いカフスを一対犬耳につけたら、言ってくれる？
俺は兄貴じゃないよ。でも、兄貴の真似を続けるよ。
……ねぇ、何処にいるの？